電話に出るとき、当たり前のように使っている「もしもし」という言葉。
でも、どうして「もしもし」って言うのか、その理由を考えたことはありますか。
普段、何気なく口にしているこのフレーズには、実は日本の歴史や文化がぎゅっと詰まった、とても奥深い物語が隠されているんですよ。
この記事では、言葉の気になる由来から、なぜ二回繰り返すのかという疑問、ビジネスシーンで「もしもし」の代わりになる言葉まで、わかりやすくお話ししていきます。
きっと最後まで読めば、「もしもし」と口にするたびに、その背景にある物語を誰かに話したくなるはずです。
「もしもし」の前に使われていた意外な言葉

今では「もしもし」が当たり前ですが、実は電話が日本に登場したばかりの頃は、まったく違う言葉が使われていました。
一体、どんな言葉だったのでしょうか。
明治時代の電話は「おいおい」から始まった
信じられないかもしれませんが、日本で電話サービスが始まった明治時代、電話に出るときの第一声は「おいおい」だったと言われています。
当時の電話機の説明書にも、「まず『おいおい』と呼びかけて相手の様子をうかがう」といった内容が書かれていたそうです。
現代の感覚からすると、少し乱暴に聞こえるかもしれませんよね。
この「おいおい」という呼びかけが使われていた背景には、当時の電話の利用者が関係しているようです。
電話はとても高価で、政府の高官や会社の社長さんなど、社会的地位の高い人しか使うことができませんでした。
そのため、彼らにとっては日常的な呼びかけの一つだったのかもしれません。
「おいおい」が不評だった理由
しかし、電話が少しずつ世の中に広まっていくと、この「おいおい」という言葉の評判が悪くなっていきます。
特に有名なのが、逓信省という役所で働いていた大井才太郎(おおい さいたろう)さんという人物のエピソードです。
彼は電話口で「おいおい」と言われるたびに、自分の名前が呼び捨てにされているようで、とても不快な気持ちになったと言われています。
自分の名前が「大井」だから、気持ちはよくわかりますよね。
このような個人的な感情も、新しい応答の言葉を探すきっかけの一つになったようです。
声しか聞こえない電話では、相手に失礼な印象を与えない、もっと丁寧な言葉が必要だと、多くの人が感じ始めていたのです。
「もしもし」の由来は丁寧語の「申す」から

「おいおい」に代わって登場した「もしもし」。
この言葉は一体どこから来たのでしょうか。
そのルーツには、日本語の美しさが関係していました。
言葉のルーツは「申します、申します」
「もしもし」の由来として、現在最も有力だと考えられているのが、丁寧な言葉である「申す(もうす)」です。
「言う」という言葉をへりくだって伝える、とても丁寧な表現ですね。
「これからお話ししますよ」という気持ちを込めて使われた「申します、申します」や「申し、申し」が、少しずつ短くなって「もしもし」という形に変化した、というのが一般的な説です。
相手への敬意が込められた、素敵な由来ですよね。
電話交換手の女性たちが普及の立役者
この新しい言葉が広まる上で、とても重要な役割を果たしたのが、電話交換手というお仕事です。
昔の電話は、今のように直接相手につながるわけではなく、一度「交換局」という場所につなぎ、交換手の人が手作業で回線を切り替えていました。
初めは男性の交換手も「おいおい」を使っていましたが、やがて女性がこの仕事の主役になると、状況は大きく変わります。
「おいおい」という言葉は、女性が使うには品がない、ふさわしくない、と考えられるようになったのです。
そこで彼女たちが選んだのが、より丁寧で響きの良い「もしもし」でした。
当時の電話業務の多くを担っていた女性交換手たちが積極的に使ったことで、「もしもし」は新鮮でおしゃれな言葉として世の中に広まっていきました。
相手に失礼がないように、という彼女たちの優しい心遣いが、「もしもし」を国民的な挨拶に育てたのですね。
実は電話が生まれる前からあった?もう一つの説
一方で、「もしもし」は「申す」から生まれた全く新しい言葉ではない、という少し違った見方もあります。
実は、電話が登場するずっと前の時代から、人に呼びかけるときに「もうし」という言葉が使われていました。
伝統的な喜劇である狂言のセリフにも、呼びかけの言葉として「もうし」が登場します。
この「もうし」が、もう少し気軽に使える「もし」になり、それを重ねて強調したものが「もしもし」の原型ではないか、という説です。
もしこれが本当なら、昔から使われていた丁寧な呼びかけの言葉が、電話という新しい道具の登場に合わせて、自然と使われるようになったと考えられます。
言葉の歴史は、本当に面白いですね。
なぜ「もしもし」と二回繰り返すの?面白い2つの説

「もしもし」の由来が「申す」にあるとしても、なぜ二回繰り返すのでしょうか。
これも気になりますよね。
この理由にも、なるほどと思える説と、少し不思議な説の二つがあるんですよ。
聞こえてる?回線確認のための繰り返し説
一つは、とても実用的な理由です。
昔の電話は、今とは比べ物にならないほど音声の品質が悪く、とても不安定でした。
相手の声が急に聞こえなくなったり、そもそも回線がちゃんと繋がっているのか不安になることも多かったそうです。
そこで、「もし(聞こえますか?)、もし(応答してください)」というように、相手の注意を引いて、返事をうながすために二回繰り返すのが習慣になったと考えられています。
会話の途中で気まずい沈黙が生まれるのを防ぐ、という役割もあったのかもしれませんね。
妖怪よけのおまじない?ちょっと不思議な説
そしてもう一つは、とてもユニークで日本らしい説です。
それは、なんと妖怪や幽霊から身を守るためのおまじないだった、という民間伝承です。
昔の日本では、人に化けた妖怪や狐などが、夜中に家を訪ねてきて「もし」と一度だけ声をかけると信じられていました。
この呼びかけにうっかり返事をして戸を開けてしまうと、家に入り込まれて魂を抜かれる、なんていう怖い話があったのです。
そのため人々は、相手が本当に人間かどうかを確かめるために、「もしもし?」と問い返したそうです。
不思議なことに、妖怪は「もしもし」と二回続けて言うことができない、と言われていました。
だから、これに答えられなければ、その正体は人間ではないと見破ることができた、というわけです。
このお話が、顔の見えない相手と話す電話の状況に、ぴったりと当てはまりました。
電話の向こうにいるのが誰なのかわからない、という漠然とした不安を、この妖怪の話が和らげてくれたのかもしれませんね。
これが「もしもし」の直接的な起源というわけではありませんが、言葉に特別な力が宿ると考える「言霊(ことだま)」の文化がある日本らしい、とても興味深いエピソードです。
「もしもし」は失礼?ビジネスシーンでの使い方

さて、こんなに豊かな歴史を持つ「もしもし」ですが、現代ではどんな場面でも使える万能な言葉、というわけではないようです。
特にビジネスシーンでは、使い方に少し注意が必要になります。
ビジネスで「もしもし」がNGと言われる理由
会社の電話応対マニュアルやビジネスマナーの研修などで、「もしもし」は使わないように、と教わった経験がある人もいるかもしれません。
なぜなら、「もしもし」は「申し、申し」の略語と見なされることがあり、フォーマルな場では丁寧さに欠ける、という印象を与えてしまう可能性があるからです。
もちろん、相手が不快に感じるかどうかは人によりますが、ビジネスの場では、誤解を招く可能性のある表現は避けるのが無難だと言えます。
「もしもし」の代わりになるスマートな言葉遣い
では、ビジネスシーンで「もしもし」の代わりになる言葉には、どんなものがあるのでしょうか。
状況別に、具体的なフレーズを見ていきましょう。
【電話を受ける場合】 会社で電話を受けるときに「もしもし」と言うのは、最も避けたい使い方です。 代わりに、まずは会社名と自分の名前をはっきりと名乗るのが基本マナーです。
- 「はい、株式会社〇〇でございます」
- 「お電話ありがとうございます。株式会社〇〇の△△が承ります」
【電話をかける場合】 こちらから電話をかけるときに、第一声で「もしもし」と言う必要は基本的にありません。 相手が電話に出たら、すぐに自分の会社名と名前を伝えましょう。
- 「お世話になっております。株式会社〇〇の△△と申します」
【プライベートな電話の場合】 親しい友人や家族からの電話であれば、「もしもし」で全く問題ありません。 相手の番号が表示されていれば、「はい、〇〇だよ」と名前で応答するのも良いですね。
【会話の途中で音声が途切れた場合】 会話の途中で相手の声が聞こえなくなったときには、「もしもし」が役立ちます。 この場合の「もしもし」は、「聞こえていますか?」という確認の意味合いが強いので、ビジネスの会話で使っても失礼にはあたりません。
- 「もしもし、〇〇様、聞こえていらっしゃいますでしょうか?」
このように、「もしもし」は場面に応じた使い分けが求められる言葉になっているのです。
世界の電話挨拶は?日本との違い

電話の挨拶が国によって違うのは当然ですが、その背景を知ると、文化の違いが見えてきて面白いですよ。
例えば、英語圏で使われる「Hello」も、もともとは電話のための言葉ではありませんでした。
「hallo」という、人の注意を引くための言葉がルーツだと言われています。
電話の発明者として有名なアレクサンダー・グラハム・ベルさんは、船乗りたちが使う「Ahoy!(アホーイ!)」という挨拶を推したそうです。
ですが、ライバルだった発明家のトーマス・エジソンさんが「Hello」を使い続けたことで、こちらが世界中に広まったと言われています。
他にも、フランス語では電話専用の「Allô(アロー)」、イタリア語では「準備OK」という意味の「Pronto(プロント)」が使われるなど、本当に様々です。
どの国の言葉も、顔の見えない相手と会話を始めるための工夫から生まれています。
その中でも、「もしもし」は、日本語の丁寧さや、ちょっと不思議な民間伝承が混じり合った、とても日本らしい言葉だと言えるでしょう。
あらためて知る「もしもし」の深い意味と歴史
いかがでしたか。
普段、私たちが何気なく使っている「もしもし」という一言。
その裏には、「おいおい」が使われていた明治時代の風景や、電話交換手として働く女性たちの細やかな心遣い、そしてちょっぴり怖い妖怪のお話まで、本当にたくさんの物語が隠されていましたね。
単なる電話の挨拶というだけでは説明できない、技術の進化と言葉の変化、そして日本の文化を映し出す、まさに生きた歴史の証人です。
次にあなたが電話を取るとき。
ぜひ「もしもし」という言葉の奥深さに、少しだけ思いを馳せてみてください。
きっと、いつもと同じ電話の時間が、もっと豊かで面白いものに感じられるはずですよ。
【免責事項】
本記事は、電話の応答に関する一般的な情報提供を目的としています。
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