2025年秋、TBSが放送したバラエティ番組内の一つのクイズが大きな波紋を呼び、最終的に局側が俳優の広末涼子さん側に「直接謝罪」する事態に至りました。
この問題は、テレビ番組の倫理観や個人の尊厳をめぐる議論に発展しています。
TBSが広末涼子に謝罪した「クイズ問題」とは何?
TBSが広末涼子さんに謝罪するきっかけとなった「クイズ問題」とは、2025年10月4日の深夜に生放送された特別番組「オールスター後夜祭’25秋」で出題された、広末涼子さんの交通事故に関する不適切な内容のクイズを指します。
この番組は、同日に放送された「オールスター感謝祭」の終了後、同じセットを利用して行われる深夜帯の恒例特番です。
司会は有吉弘行さんと高山一実さんが務めました。「感謝祭」本編が家族向けの体裁であるのに対し、「後夜祭」は深夜帯ならではの、より刺激的でエッジの効いた笑いや皮肉に満ちた企画を特徴としています。
物議を醸したのは、番組内で出題された次のような四択クイズでした。
「次のうち、時速165キロを出したことがないのは誰でしょう?」
画面には、①大谷翔平さん、②佐々木朗希さん、③伊良部秀輝さん、そして④広末涼子さん、という4つの選択肢が提示されました。
このクイズの構造こそが、後に深刻な問題として指摘されることになります。
クイズ問題の真相は?
このクイズ問題の真相、すなわちTBSが謝罪するに至った理由は、その設問の悪質な構造にあります。
一見すると知識を問うクイズのようでありながら、実際にはプロ野球選手の「球速」というポジティブな記録と、広末涼子さんが関わった交通事故における自動車の「速度」というネガティブな事象を、意図的に同列に並べるものでした。
番組では、正解が「③伊良部秀輝さん」であると発表された後、司会者から「広末さんは事故を起こした際、ジープ・グランドチェロキーで時速165キロを出していたと報じられています」という解説が加えられました。
この瞬間、スタジオは一瞬の静寂に包まれ、その後、苦笑混じりのどよめきが起こったと報じられています。
この演出は、卓越したアスリートの能力と、個人の不幸な事故とを比較することで笑いを生み出そうとするものであり、巧妙な言葉遊びではなく、一個人の不幸を直接的に揶揄する構造を持っていました。
この点が、単なる「不謹慎なジョーク」を超えた、個人への攻撃的な内容であると厳しく批判される最大の理由となりました。
問題が「不適切」とされた3つの重大な理由
報道や専門家の分析によれば、今回のクイズが極めて「不適切」であり、TBSが弁解の余地なく謝罪せざるを得なかった背景には、主に3つの重大な倫理的・法的な問題点があったと指摘されています。
第一の理由は、広末涼子さんご本人が置かれていたデリケートな状況です。
報道によると、所属事務所は2025年5月、広末涼子さんが双極性感情障害および甲状腺機能亢進症と診断されたことを公表していました。
公に「心身の回復に専念する」として無期限で芸能活動を休止している、精神的にも身体的にも不安定な状態にある個人を、攻撃的な笑いの標的にした行為は、人間の尊厳を踏みにじるものだという厳しい批判があります。
第二の理由は、法的な観点からの問題です。
クイズの題材となった2025年4月の交通事故は、放送時点で警察による捜査が継続中の案件であったと報じられています。
自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の疑いで捜査が進められていたとされます。さらに、番組内で断定的に扱われた「時速165キロ」という情報も、公的機関の発表ではなく、一部メディアによる未確認の憶測報道に過ぎなかったとの指摘があります。
法的な結論が出ていない段階で、一方的な情報を基に個人を揶揄する行為は、報道倫理に反し、推定無罪の原則を侵害する危険性もはらんでいます。
第三の理由は、業界の手続き的な慣習を無視した点です。
通常、テレビ番組で特定の芸能人を、特にネガティブな文脈で大きく取り上げる際には、事前に所属事務所へ連絡し許諾を得るのが業界の慣習とされています。
しかし、今回、所属事務所側が後述する極めて強硬な手段で抗議した事実は、こうした事前許諾が一切なかったことを強く示唆している、と関係者は分析しています。
TBSが広末涼子に「直接謝罪」するまでの経緯と対応まとめ
問題の放送後、広末涼子さんの所属事務所である株式会社R.H.は迅速かつ強硬な対応を取り、TBS側はそれに即座に応じる形で事態の収拾を図りました。謝罪に至るまでの経緯は以下の通りです。
2025年10月4日深夜に番組が放送されると、直後からSNS上などで批判の声が上がり始めました。
放送からわずか2日後の10月6日、所属事務所はTBSに対し、単なる抗議に留まらず、法的な意味合いを持つ「内容証明郵便」で抗議文を送付したと報じられています。
この書面で、事務所は正式な謝罪と「名誉回復措置」を明確に要求しました。この手段は、事務所側が法的措置も辞さないという断固たる姿勢を示すものであったと分析されています。
続いて10月9日、所属事務所は公式サイト上で「極めて不適切であり、本人および関係者の名誉を著しく毀損する行為」として、TBSに厳重に抗議したことを公表しました。
この事務所側の公式声明を受け、TBSは同日の10月9日に即座に行動します。番組の公式サイトに「俳優・広末涼子さんに関する現在捜査中の交通事故をバラエティ番組のクイズの題材として扱ったことは不適切でした」と、非を全面的に認める謝罪文を掲載しました。
同時に、動画配信サービスなどから、問題となったクイズ部分を削除する措置を講じました。
さらにTBSは、2025年10月29日に行われた定例社長会見において、合田隆信専務が、番組の制作担当者が広末涼子さんの所属事務所を直接訪問し、対面で謝罪したことを明らかにしました。
この一連の「迅速かつ誠実な対応」を受け、所属事務所側も公式サイトで謝意を表明し、TBS側の謝罪を受け入れる姿勢を示したことで、両者間の公的な対立は終結しました。
世間の反応やコメントは?
この「165キロクイズ」問題とTBSの謝罪に対し、世間からは非常に多様な反応が寄せられました。
最も多かったのは、TBSの倫理観の欠如を厳しく非難する声です。
インターネット上のコメントでは、「事故を笑いのネタにする、とか、常識的にありえないと思いますが…」「企画スタッフやプロデューサーは相当感覚鈍い。笑いものにして良い内容ではない」「病気の人を揶揄する真似を公共の電波で行うなんて絶対に許されない事」といった、番組制作陣の配慮のなさを指摘する意見が目立ちました。
一方で、少数ながらも異なる視点からの意見も見受けられました。
一部には、番組特有のブラックユーモアとして擁護する声や、テレビ番組の表現が萎縮することへの懸念を示す声もありました。「広末サイドが怒らなかったら何も思わなかったでしょ?」「この程度のブラックなネタをジョークとして笑い飛ばせないほどこの国はおかしくなっている」といったコメントです。
また、「プロデューサーの藤井健太郎は悪い事したなんて1ミリも思ってないだろうな」のように、番組の演出を手掛ける藤井健太郎さんの「攻めた演出」スタイルが背景にあると指摘する声もありました。
加えて、「ネタにされてもしょうがない。165km出した方が悪い」「法を犯した有名人は玩具にされるのが贖罪の一つだよ」など、クイズの題材となった広末涼子さん自身の行動を問題視する意見も一定数存在しました。
このように、世間の反応はTBSへの批判が大多数を占める一方で、テレビ表現のあり方や、タレント側の問題行動に対する受け止め方をめぐり、賛否が分かれる形となりました。
まとめ
TBSが広末涼子さんに謝罪した理由は、2025年10月4日放送の「オールスター後夜祭’25秋」において、極めて不適切なクイズを出題したためです。
そのクイズは、公に療養中であった広末涼子さんが関わった、当時まだ捜査中とされる交通事故を揶揄するものでした。
この問題は、当事者の健康状態への配慮(人的要素)、捜査中の案件を扱ったこと(法的要素)、そして所属事務所への事前許諾を欠いたこと(手続き的要素)という、多層的な倫理的破綻であったと厳しく指摘されています。
所属事務所側からの内容証明郵便による強硬な抗議を受け、TBSは公式サイトでの謝罪、アーカイブ動画の削除、さらには担当者による事務所への直接訪問謝罪という、迅速かつ全面的な対応を行いました。
この背景には、世論の批判だけでなく、名誉毀損訴訟といった法的なリスクを回避する経営判断があったとも分析されています。
この一件は、メディアが「表現の自由」を追求する一方で、個人の尊厳や人権をいかに守るべきかという、重い課題を改めて突きつける事例となりました。























コメントを残す