飛行機の翼が飛行中にしなるのはなぜ?折れない理由と仕組みを解説

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飛行機の窓から翼を見ていると、飛行中に翼の先が上下へ動いたり、地上にいるときより大きく上へ反って見えたりすることがあります。

「こんなに曲がって折れないの?」と不安になるかもしれませんが、飛行機の翼は、飛行中にかかる力によって安全な範囲でしなることを前提に設計されています。

翼がしなる大きな原因は、飛行中に翼が生み出す「揚力」です。しかも、単に柔らかい翼を使っているわけではありません。必要な強度と剛性を確保しながら、軽さや空力性能とのバランスを取った結果として変形が起こります。

この記事では、飛行機の翼がなぜしなるのか、あれほど曲がっても折れない理由、ボーイング787などでしなりが目立つ理由まで順番に解説します。

飛行機の翼が飛行中にしなるのは揚力で上向きに曲げられるから

飛行機の翼が上向きにしなる直接的な理由は、翼全体に上向きの空気力がかかるためです。

翼は空気の流れを利用して揚力を発生させます。この揚力は翼の一点だけを持ち上げるのではなく、翼の表面に分布して働きます。

一方、翼の付け根は胴体につながっています。そのため、翼全体へ上向きの力が加わると、定規の片方を固定して反対側を持ち上げたときのように、翼には「曲げ」が発生します。

飛行機に働く揚力そのものについては、飛行機が空を飛ぶ仕組みと4つの力でも詳しく解説しています。

地上と飛行中では翼にかかる力の向きが変わる

地上に止まっている飛行機では、翼自身の重さや、翼内の燃料、翼に取り付けられたエンジンなどの重量が下向きに働きます。

ところが飛行を始めると、翼には大きな揚力が上向きに加わります。水平飛行では飛行機全体として揚力と重量がほぼ釣り合っていますが、翼だけを見ると、空気から受ける上向きの力によって大きな曲げ荷重を受けています。

そのため、駐機中に見た翼と飛行中に見た翼では、同じ機体でも形が違って見えることがあります。これは翼が壊れかけているのではなく、荷重に応じて構造が変形しているためです。

翼端ほど大きく動いて見えるのはなぜ?

翼のしなりを見ていると、胴体に近い部分より、先端のほうが大きく上下していることに気づきます。

これは翼の付け根が胴体に強く固定されているのに対し、外側へ行くほど変形が積み重なっていくためです。翼を大まかに「片側を固定した長い梁」と考えると分かりやすいでしょう。

付け根付近のわずかな曲がりでも、その角度が翼幅方向に積み重なるため、翼端では上下方向の移動量が大きくなります。そのため客室の窓からは、実際の翼の変形以上に「先端が大きく動いている」という印象を受ける場合があります。

飛行機の翼は「しなる前提」で強さと軽さを両立している

飛行機の翼は、できるだけ変形しないことだけを目標に設計されているわけではありません。

航空機では、強度に加えて重量も非常に重要です。必要以上に重くすれば、飛ぶためにより大きな揚力が必要となり、燃料消費や機体性能にも影響します。

まったく曲がらないほど硬い翼にすると重量が増える

翼をまったく変形させないことだけを考えるなら、構造を厚くしたり、より多くの材料を使ったりして剛性を高める方法が考えられます。しかし、それでは重量が増えてしまいます。

実際の航空機では、「必要な荷重に耐えられる強度」「変形量を適切に抑える剛性」「できるだけ軽い構造」「空気抵抗の少ない形状」といった複数の条件を同時に満たす必要があります。

その結果、荷重を受けても一切形が変わらない翼ではなく、設計上許容された範囲で変形しながら荷重を支える翼になります。

スパー・リブ・外板が一体となって飛行中の荷重を支える

旅客機の翼は、中身が空洞の薄い板ではありません。内部には荷重を支える複数の構造があります。

  • スパー(桁):翼の付け根から翼端方向へ伸びる主要な構造部材
  • リブ(小骨):翼の断面形状を保ち、荷重をスパーへ伝える部材
  • 外板:翼の表面を形成し、構造の一部として荷重を負担する
  • ストリンガー:外板などを補強する翼幅方向の部材

FAA(米連邦航空局)の航空整備技術者向けハンドブックでも、スパーは翼の主要な構造部材であり、外板やリブなどと組み合わせて飛行中の荷重を支える構造が説明されています。

そのため、「翼が曲がっている=薄い外板だけが曲がっている」というわけではありません。翼全体の構造が荷重を受けながら一体として変形しています。

「しなる」と「弱い」は同じ意味ではない

目に見えて曲がると「硬い翼より弱いのでは?」と思いやすいですが、強度と剛性は同じものではありません。

強度は、どの程度の荷重まで壊れずに耐えられるかに関係します。一方の剛性は、荷重を受けたときにどの程度変形しにくいかに関係します。

一定の範囲で変形する構造でも、必要な強度を持たせることはできます。飛行機の翼は、変形量そのものも含めて設計・解析・試験されています。

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あれほどしなっても翼が折れないのはなぜ?

翼が飛行中に元の形から曲がるのは、設計で想定された範囲内であれば異常ではありません。

航空機では、実際の運航中に予想される荷重だけではなく、それより厳しい条件も考慮して構造の強度を確認します。

通常のしなりは元の形へ戻る弾性変形

荷重を受けて形が変わり、荷重が小さくなると元の形へ戻る変形を「弾性変形」と呼びます。

たとえば定規を軽く曲げて手を離すと元へ戻りますが、これは身近な弾性変形の例です。飛行機の翼を定規と同じ構造だと考えることはできませんが、「力が加わると変形し、力が小さくなると戻る」という点は共通しています。

反対に、荷重を取り除いても元へ戻らない変形は永久変形です。米国の輸送カテゴリー航空機に適用される14 CFR Part 25では、限界荷重に耐えたときに有害な永久変形を起こさないことなどが構造要件として定められています。

航空機は通常飛行より大きな荷重を想定して強度を確認する

航空機構造の話では、「限界荷重」と「終極荷重」という言葉が使われます。

用語意味
限界荷重運用中に予想される最大の荷重として扱う基準
終極荷重限界荷重に所定の安全率を掛けた荷重
弾性変形荷重が小さくなると元の形へ戻る変形

米国の14 CFR 25.303では、特に指定がない場合、外部荷重として定められた限界荷重へ1.5の安全率を適用することが規定されています。

これは「飛行中は常に1.5倍の力が翼にかかっている」という意味ではありません。実際に想定する最大荷重と、それを超える強度確認のための荷重を区別するための考え方です。

787は地上試験で翼を約7.6m上へ曲げて確認した

翼が大きくしなる例としてよく知られているのが、ボーイング787です。

ボーイングは2010年、787の静強度試験機を使った終極荷重試験で、運航中に想定される最も厳しい力の150%に相当する荷重を機体へ加えました。そのとき、翼は上方向へ約25フィート、メートル換算で約7.6mたわんだと公表しています。

この約7.6mは、通常の旅客飛行中に翼が7.6m曲がっているという意味ではありません。地上に置いた試験機へ非常に大きな荷重を加えた終極荷重試験での値です。

試験の条件は、Boeingの787終極荷重試験の発表でも確認できます。

窓から787の翼を見て「試験映像ほどは曲がっていない」と感じるのは当然です。通常運航と、機体の強度を確認するための試験では荷重条件が異なります。

ボーイング787などで翼のしなりが目立つ理由

翼が飛行中にしなるのは787だけではありません。金属を主体とする従来の航空機でも、荷重を受ければ翼は変形します。

ただし、機種によって翼の長さ、厚さ、材料、内部構造、剛性などが違うため、見た目のしなり方にも差があります。

細長い高アスペクト比の翼は空気抵抗を減らしやすい

翼の細長さを表す指標の一つが「アスペクト比」です。一般に、翼幅が長く細長い高アスペクト比の翼は、揚力を作るときに生じる誘導抗力を減らしやすく、空力効率を高めるうえで有利です。

一方、翼が長く細くなれば、構造の柔軟性も無視できなくなります。

NASAとBoeingは現在も、将来の旅客機を想定した長く細い高アスペクト比翼について研究しています。NASAは、こうした翼は空気抵抗を減らして効率を高められる一方、非常に柔軟になりやすく、突風荷重や操縦荷重による動きを制御する必要があると説明しています。

詳しくは、NASAとBoeingによる高アスペクト比翼の研究でも確認できます。

複合材は「柔らかい」のではなく必要な強度と剛性を設計できる

787の翼を説明するとき、「カーボンだから柔らかくてよく曲がる」と説明されることがありますが、これは単純化しすぎです。

ボーイングによると、787の機体は重量ベースで約50%に複合材が使われています。炭素繊維複合材には高い比強度や比剛性を持たせることができ、繊維の方向や積層方法などによって構造特性を調整できるのも特徴です。

そのため、「複合材だから柔らかい」のではなく、材料、翼形状、内部構造などを組み合わせて必要な強度と剛性が設計されていると考えるほうが正確です。

Boeingの787公式情報でも、787の機体重量の約50%を複合材が占めていることが示されています。

しなり方は機種によって違う

「飛行機の翼なら何mしなる」と一つの数字で表すことはできません。

翼の変形量は、機種ごとの翼幅や構造だけでなく、そのときの機体重量、速度、姿勢、旋回、突風などによっても変化します。

  • 翼が長いか短いか
  • 翼の厚さや内部構造
  • アルミ合金や複合材など使用材料
  • 燃料やエンジンなど翼にかかる重量
  • 飛行速度や旋回による荷重
  • 突風などによる一時的な荷重変化

したがって、窓から見える翼の動きだけを比べて、「よく曲がる機種ほど弱い」「ほとんど動かない機種ほど丈夫」と判断することはできません。

乱気流で翼が上下に動いても大丈夫?

乱気流の中を飛んでいるときには、翼端が普段より大きく上下することがあります。

見た目には不安を感じやすい場面ですが、飛行機の設計では一定の巡航状態だけでなく、突風によって変化する荷重も考慮されます。

突風で揚力が変化すると翼の変形量も変わる

翼が受ける空気の流れが変われば、発生する空気力も変わります。

上向きの突風などによって翼が受ける荷重が一時的に増えれば、翼の変形量も変わります。反対に荷重が減れば、翼は元の位置へ戻ろうとします。

窓から見ると翼端が上下へ動いているように見えるのは、このように周囲の空気の状態や機体運動に応じて翼が変形しているためです。

「翼がしなれば揺れを全部吸収する」とは限らない

翼のしなりを自動車のサスペンションにたとえ、「柔らかい翼が乱気流の衝撃を吸収するから機内は揺れない」と説明されることがあります。

しかし、実際の現象はそれほど単純ではありません。翼の柔軟性が機体の応答へ影響するのは確かですが、柔軟な翼ほど突風に対する動きが大きくなる場合もあります。

そのため航空機では、翼そのものの構造だけでなく、空気力、構造の変形、機体の運動、飛行制御まで組み合わせて考える必要があります。

柔軟な翼ではフラッターなどの空力弾性も考慮されている

翼のような弾性を持つ構造物では、空気から受ける力と構造の変形が互いに影響し合います。こうした現象は「空力弾性」と呼ばれます。

空力弾性の中でも特に注意が必要なのが「フラッター」です。これは空気力と翼などの振動が組み合わさり、条件によって振動が増幅していく現象です。

そのため、「翼は柔らかければ柔らかいほどよい」というものではありません。NASAが高アスペクト比の柔軟翼で行っている研究でも、突風荷重の低減と並んでフラッターの抑制が重要な研究項目になっています。

飛行機の窓から見える翼のしなりは、壊れそうな翼が無理に曲がっている姿ではありません。揚力による大きな荷重を受けながら、必要な強度と剛性の範囲内で構造が変形している姿です。

翼が長くなるほど先端の動きは目立ちやすく、787のように細長い翼を持つ機体では特に印象的に見えることがあります。次に飛行機へ乗る機会があれば、地上にいるときと飛行中で翼の形がどう変わるか見比べてみると、翼が機体を支えている様子をより実感しやすくなります。

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