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中国で、実在する俳優を撮影せず、AIで生成した人物が演じる「AIドラマ」が急速に増えています。
中国国家広播電視総局が2026年9月17日に明らかにしたところでは、2026年1月から8月に中国で公開されたショートドラマは43万本に達し、そのうちAI劇が9割を超えました。
背景にあるのは、動画生成AIの性能向上によって、人物だけでなく脚本、演出、カメラワーク、音声までAIで処理できる範囲が急速に広がったことです。
ただし、「9割超がAI劇」という数字を「9割超の作品で人間の俳優が一切出演していない」という意味で受け取るのは正確ではありません。
中国で何が起きているのか、AI俳優とはどのようなものなのか、実写の俳優や日本のドラマ制作にも同じ変化が広がるのかを整理します。
中国でAI俳優・AIドラマが急増|43万本の9割超がAI作品
中国のショートドラマ業界では、2026年に入ってAIを使った作品の比率が一気に高まっています。
中国国家広播電視総局ネット視聴番組管理司の王小亮司長は2026年9月17日の記者会見で、全国のショートドラマ利用者が8億人を超え、2025年の市場規模が1000億元を突破したと説明しました。
さらに、2026年1~8月に公開されたショートドラマは43万本で、2025年通年の13倍、そのうちAI劇が9割を超えたとしています。
この数字は新華社でも報じられており、中国当局がAI技術の急速な普及を正式に認めた形です。新華社の報道
2026年1~8月だけでショートドラマ43万本が公開
特に伸びているのが、スマートフォンで短時間に視聴できる「微短劇」と呼ばれるショートドラマです。
中国では2026年9月1日から「微短劇発展管理弁法」が施行され、制度上は1話20分未満で、明確なテーマや連続した物語、人物を持つ作品などが対象とされています。
FNNが紹介したAIショートドラマには1話約1分の作品もあり、短い映像を大量かつ素早く制作できる生成AIとの相性の良さが見えてきます。
「9割超AI」はAI俳優が9割という意味なのか
ここで注意したいのが「AI劇」という言葉の意味です。
中国当局の発表は「AI劇が9割超」としており、人工知能技術がショートドラマ制作で広く活用されていると説明しています。
43万本のうち9割以上で、登場人物がすべてAI生成だったと発表されているわけではありません。
AIは人物そのものの生成だけでなく、脚本、絵コンテ、背景、映像、特殊効果、音声など制作工程の一部にも利用できます。
そのため、「AI技術を使ったドラマ」と「人間の俳優を使わず、登場人物までAIで生成したドラマ」は分けて考える必要があります。
中国でAIドラマが急増した理由は制作費と時間の大幅削減
AIドラマがこれほど急速に増えている大きな理由の一つが、制作に必要な人員・費用・時間を圧縮できることです。
FNNは2026年9月、上海でAIドラマを制作する「上海水木青洲科技有限公司」の現場を取材しています。
70~80人だった制作現場が数人規模になった例も
同社は2026年4月から制作部門の一部を実写ドラマからAIドラマへ変更しました。
FNNの取材によると、これまで実写のショートドラマを制作する際には70~80人ほどが必要だったところ、AIを利用すると数人規模で制作できるようになったといいます。
脚本を考える段階からAIを使い、演出ではカット割り、カメラワーク、セリフ、効果音などの案もAIに作らせます。
さらに脚本と登場人物の画像を動画生成AIへ入力し、生成された映像を人間が確認しながら修正するという制作方法です。
同社の事例では、1分程度の映像を2~3時間で仕上げるとされています。
制作費60万元超から3万~5万元になった制作会社の事例
コスト差も非常に大きくなっています。
「AIなら3万元台から5万元で作れます」
FNNプライムオンライン
上海水木青洲科技有限公司の趙凌彬CEOによると、以前は1作品に60万元余り、日本円換算で約1400万円かかっていた作品が、AI制作では3万~5万元程度になったとしています。
これはあくまでFNNが取材した一企業の制作例であり、中国のすべてのドラマで同じ割合だけ費用が下がるという意味ではありません。
それでも、撮影場所、出演者、照明、カメラ、衣装、大人数のスタッフなどが必要だった工程の一部をコンピューター上へ移せることは、AIドラマが短期間で増えた大きな要因と考えられます。
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AI俳優とは?実在の俳優を撮影せず演技まで生成できる
今回のニュースで使われている「AI俳優」は、中国政府が定めた正式な職業名や法律上の分類ではありません。
FNNでは、実際の俳優を撮影するのではなく、AIによって生成された人物が映像の中で演技する作品について「AI俳優」という表現を使っています。
顔・動作・セリフ・声・カメラワークまでAIで制作
従来のCGキャラクターでも架空の人物を映像化することは可能でしたが、生成AIでは文章や画像などから新しい映像を自動生成できる点が大きく異なります。
人物の外見を設定し、その人物が歩く、振り向く、話すといった動きを生成し、さらに背景やカメラの動き、音声まで組み合わせられるようになっています。
撮影後にAI加工を加えるだけではなく、そもそも撮影を行わず、映像の中にしか存在しない人物を作ることが現実的な制作手段になってきたということです。
完全AI生成とAIを一部利用したドラマは分けて考える必要がある
一方で、「AIドラマ」という呼び方だけでは制作方法は分かりません。
登場人物から背景、映像まで生成AIで制作する作品もあれば、人間の俳優が演技し、背景やVFXなど一部の映像制作に生成AIを利用する作品もあります。
そのため、AIドラマが増えたという事実だけから、「人間の俳優が同じ割合でAIへ置き換わった」と判断することはできません。
Seedance 2.0とは?中国AIドラマ急増を支えた動画生成AI
中国の映像制作が変化する中で大きな存在となったのが、TikTokを運営するByteDanceのAI研究チーム「Seed」が開発した動画生成AI「Seedance 2.0」です。
ByteDanceはSeedance 2.0を2026年2月12日に正式発表しました。ByteDance Seed公式
テキスト・画像・音声・動画から映像を生成
Seedance 2.0は、文章だけで映像を作る単純な動画生成AIではありません。
テキスト、画像、音声、動画という4種類の入力に対応し、最大15秒の複数カットを含む音声付き映像を生成できます。
参考となる人物画像や動画を与え、構図、動作、カメラワーク、効果、音などを指示できるため、AIに「映像を1本作らせる」だけでなく、人間が監督するように細かく修正していく制作方法が可能になりました。
ByteDance自身も、Seedance 2.0について映画、広告、EC、ゲームなどの制作コスト削減につながるモデルとして説明しています。
2026年7月にはSeedance 2.5も登場
さらに技術はSeedance 2.0で止まっていません。
ByteDanceは2026年7月31日、後継となる「Seedance 2.5」を正式発表しました。ByteDance Seed公式
Seedance 2.5では、1回の生成で最大30秒の音声付き映像を作れるほか、複数回にわたって映像を延長できるようになっています。
ByteDanceが2.5で強調しているのは、短い映像クリップを作るだけでなく、より長い物語を制作する方向への進化です。
2026年2月のSeedance 2.0がAIドラマ制作を加速させた一つの要因だとしても、9月時点ではすでに次世代モデルへ進んでいることになります。
AIドラマ急増で実写俳優や撮影現場にはどんな影響が出ている?
AI制作の急拡大と同時に、中国の実写ドラマ制作現場では撮影件数や仕事の減少も報告されています。
ただし、実写作品が減っている原因をすべてAIだけに求めることはできません。
中国の「ハリウッド」横店で撮影チームが減少
影響が目立つ場所の一つが、中国浙江省にある巨大撮影拠点「横店影視城」です。
FNNが取材した日は多くの観光客が訪れていた一方、取材班が確認したドラマ撮影チームは1組だけだったと報じられています。
また、FNNが紹介した現地メディアのデータでは、2026年1~5月に横店が受け入れた撮影チームは前年同期から少なくとも半減したとされています。
別の中国メディアでも、2026年5月末までに横店が受け入れた短編ドラマの撮影チームは1499組で、前年同期から少なくとも半減したとの数字が報じられています。
FNNの現地取材では、数カ月仕事がないと話すスタントマンや、出演料が前年から大幅に下がったケースも紹介されました。
もっとも、短編ドラマ市場そのものの競争激化や制作会社の淘汰なども進んでおり、撮影チーム減少のすべてを生成AIによるものと断定するのは難しい状況です。
中国当局は実写ドラマの支援も表明している
中国当局も、AI作品へ全面的に切り替える方針を示しているわけではありません。
国家広播電視総局は2026年9月17日の会見で、実写作品を質の高い作品制作の中心と位置付け、プラットフォームに実写作品の専用コーナーを設けるなど支援を進める方針を示しています。
一方、AI作品についても禁止するのではなく、技術革新を促しながら、内容や権利保護のルールを厳しくする方針です。
現時点では、「AIか実写か」という二者択一よりも、完全AI作品、AIと実写を組み合わせた作品、従来型の実写作品が並行して制作される段階と考えた方が実態に近いでしょう。
AI俳優には肖像権・著作権・AI表示という新たな課題もある
人物を自由に生成できるようになるほど、「誰の顔や声を参考にしたのか」という問題も重要になります。
中国国家広播電視総局もAI劇の急増によって、内容品質だけでなく権利保護が新たな課題になっていると認めています。
本人の顔や声を無断でAI作品に使わないことが重要に
2026年9月17日の会見では、AI劇について肖像や声の利用許諾に関するルールを守り、制作から配信まで確認することをプラットフォームへ求める方針が示されました。
つまり、AIなら好きな人物そっくりの俳優を自由に作ってよいという考え方ではありません。
技術的に実在人物へ似せられることと、その人物の顔や声を商用作品へ利用できることは別の問題です。
中国ではAI生成コンテンツの表示ルールが施行済み
中国ではAI生成コンテンツであることを示す制度もすでに導入されています。
国家インターネット情報弁公室、工業情報化部、公安部、国家広播電視総局が策定した「人工智能生成合成内容標識弁法」は、2025年9月1日から施行されています。国家広播電視総局
対象にはAIで生成・合成した文章、画像、音声、動画、仮想空間などが含まれ、利用者に見える表示と、ファイル内部へ付与する情報の両面からAI生成物を識別する仕組みが定められています。
さらに2026年9月1日には、中国で「微短劇発展管理弁法」も施行されました。国家広播電視総局
AIドラマの制作量が増える一方で、作品であることの表示、肖像や音声の権利、作品内容の審査を同時に整備する段階へ入っています。
AI俳優は日本のドラマにも広がる?現時点で分かっていること
中国ほど大量ではないものの、日本のテレビや映像制作でも生成AIはすでに実際の作品へ入り始めています。
ただし、日本で確認できる事例を見る限り、現時点では「人間の俳優をすべてAIへ置き換える」だけが進んでいるわけではありません。
日本でも「実写×生成AI」や完全AI映像の作品が登場
2026年1月に日本テレビで放送されたドラマ「TOKYO 巫女忍者」は、莉子さんら実在する俳優の演技と生成AI映像を組み合わせて制作されました。
制作協力したAOI Pro.も「実写×生成AI映像が融合する」作品として紹介しています。AOI Pro.
一方、読売テレビ系のytvメディアデザインが制作したショートドラマ「サヨナラ港区」は、撮影を行わず映像素材をAIで生成し、人間が脚本、編集、音響制作などを担当した作品として公開されています。読売テレビ
TBSも2026年放送の「VIVANT」続編で、Googleの動画生成AI「Veo」を本編映像の一部へ導入しています。
こちらも俳優そのものをAIへ置き換える目的ではなく、CGやVFX制作の効率化など、実写制作を支える用途として採用されています。TBS INNOVATION LAND
「人間の俳優が不要になる」とまでは現時点で断定できない
中国ではAIだけで人物や映像を作るショートドラマが急増する一方、日本では実写の俳優と生成AIを組み合わせる作品も増えています。
生成AIには、撮影が難しい場面を作る、背景や特殊効果を生成する、小規模なチームで短編映像を制作するといった用途があります。
反対に、長時間にわたって同じ人物を自然に演じさせることや、権利処理、作品の品質管理などは、AI作品が増えるほど重要になります。
2026年9月時点で確認できるのは、「AIが俳優をすべて置き換えた」という状況ではなく、AIによって映像制作の選択肢とコスト構造が大きく変わり始めているということです。
中国では43万本という大量のショートドラマが生まれる一方、当局は実写作品への支援とAI作品の表示・権利保護を同時に進めています。
Seedanceが2.0から2.5へ短期間で進化したように動画生成技術そのものは現在も変化しており、日本でも完全AI作品と実写をAIで補助する作品の両方が、今後どこまで定着するかが次の焦点になります。
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