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大型船を港やドックで見たとき、船の先端から丸い部分が突き出していることがあります。大きな球やこぶのように見えるため、「何のために付いているの?」と不思議に感じますよね。
結論からいうと、大型船の船首から水中へ突き出している丸い部分は、バルバスバウです。日本語では「球状船首」と呼ばれ、船が進むときに発生する波を弱め、抵抗を減らすために設けられています。鉄道・運輸機構も、バルバスバウを水面下の球根状部分がつくる波と主船体がつくる波を打ち消し合わせ、造波抵抗を減らす構造と説明しています。
ただし、バルバスバウは単純に水を切るための出っ張りではありません。この記事では、船首の丸い突起の名称や設置されている場所、波の抵抗を減らす仕組み、航行への効果、すべての船に付いているわけではない理由を紹介します。
船首の丸い突起はバルバスバウ
船首の水面下にある丸い突起は、バルバスバウと呼ばれます。
日本語では、主に次のような名称が使われます。
- 球状船首
- 球型船首
- 船首バルブ
- バルブ船首
呼び方は異なりますが、いずれも船首から水中へ突き出している膨らんだ部分を指します。
鉄道・運輸機構の船舶建造レポートでは、現在の多くの船にバルバスバウが採用されており、水面下へ突き出した球根状の部分として紹介されています。
基本的には水面より下にある
バルバスバウは、基本的に船首の水面下に設けられています。
貨物を積んで船体が深く沈んでいるときは、水中に隠れているため、岸から見ても形が分からないことがあります。
一方、次のような場面では、船の先端の出っ張りが見えやすくなります。
- 船がドックに入っているとき
- 船を建造している途中
- 貨物を積んでおらず、船体が高く浮いているとき
- 波によって船首が持ち上がったとき
「写真では見えるのに、航行中の船では見えない」と感じるのは、通常は水面より下に隠れているためです。
完全な球形とは限らない
球状船首という名前ですが、必ずしもボールのような完全な球形をしているわけではありません。
先端が丸いもののほか、細長く前へ伸びたもの、下側が尖ったもの、幅が広く平たいものなど、船によって形が異なります。
バルバスバウは、船体の大きさや幅、通常の航行速度、貨物を積んだときの喫水などに合わせて設計されます。そのため、同じ大型船でも丸い部分の大きさや形が違います。
バルバスバウは波の抵抗を減らすためにある
バルバスバウの主な目的は、船が航行するときに発生する造波抵抗を減らすことです。
造波抵抗とは、船が水を押し分けて波をつくることで生じる抵抗を指します。
船が進むときに受ける代表的な抵抗は、次のとおりです。
| 抵抗の種類 | 発生する理由 |
|---|---|
| 摩擦抵抗 | 船体の表面と水がこすれる |
| 造波抵抗 | 船が水を押し分けて波をつくる |
| 粘性圧力抵抗 | 船体周辺の流れが乱れ、渦などが発生する |
| 空気抵抗 | 水面より上の船体が風を受ける |
このうち、バルバスバウが主に抑えるのが造波抵抗です。
船が進むと船首付近の水面が盛り上がり、船首波が発生します。波をつくるためにもエネルギーが使われるため、波が大きくなるほど船の前進を妨げる抵抗も大きくなります。
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バルバスバウで波の抵抗を減らす仕組み
バルバスバウは、船体がつくる波とは別の波を水中で発生させます。
その2つの波を適切な位置で重ね、船首付近の波を弱めるのがバルバスバウの基本的な仕組みです。
流れを簡単に表すと、次のようになります。
- 主船体が水を押し分けて船首波をつくる
- 水中のバルバスバウも別の波をつくる
- 主船体とバルバスバウがつくる波が重なる
- 波の山と谷が互いに弱め合う
- 船全体から発生する波が小さくなる
- 造波抵抗が減り、少ない推進力で進みやすくなる
鉄道・運輸機構も、バルブがつくる波と主船体がつくる波が打ち消し合うように設計されていると説明しています。
波の山と谷を重ねて弱める
水面にできる波には、高く盛り上がる「山」と、低く下がる「谷」があります。
主船体がつくる波の山に、バルバスバウによる波の谷が重なるようにすると、互いの動きが弱め合います。
反対方向へ動く2つの波を重ね、船首付近の波を小さくするイメージです。
ただし、「波を打ち消す」といっても、船がつくる波を完全にゼロにするわけではありません。船体全体から発生する波を小さくし、波をつくるために失われるエネルギーを抑えています。
水を直接切り裂いているだけではない
船の先端に丸い突起があるため、バルバスバウが水を切り裂いて抵抗を減らしているように見えるかもしれません。
しかし、主な働きは、突起で水を直接切ることではありません。
バルバスバウがつくる波と圧力の変化を利用して、主船体がつくる波を弱めることが重要です。単に船首を細く尖らせる方法とは、抵抗を減らす仕組みが異なります。
バルバスバウにはどのような効果がある?
バルバスバウによって造波抵抗が減ると、船の推進性能や燃料消費に良い影響が期待できます。
主な効果は次のとおりです。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 造波抵抗の低減 | 船首付近で発生する波を小さくする |
| 推進効率の向上 | 同じ速さで進むために必要な力を抑える |
| 燃料消費の抑制 | エンジンに必要な出力を抑える |
| CO2排出量の抑制 | 燃料使用量の減少に伴って排出量も抑えられる |
| 航続効率の向上 | 一定量の燃料で効率よく航行しやすくなる |
日本郵船の大型原油タンカー「TATESHINA」でも、船首部分の形状を改良して、船首波による造波抵抗を減らし、推進性能を高める設計が採用されています。同船では、低摩擦塗料や高効率プロペラなど、ほかの省エネ技術も組み合わせています。
同じ速度なら必要な推進力を抑えられる
船が一定の速度で進むには、水や空気から受ける抵抗に負けないだけの推進力が必要です。
バルバスバウで造波抵抗を減らせれば、同じ速度を保つために必要なエンジン出力を抑えられます。
特に、一定の速度で長距離を航行するタンカーやコンテナ船、ばら積み船などでは、航海全体で消費する燃料が多いため、抵抗を減らす工夫が重要になります。
バルバスバウは設計速度で効果を発揮しやすい
バルバスバウは、付ければどのような条件でも抵抗が減る装置ではありません。
その船が通常航行すると想定した設計速度や、貨物を積んだときの喫水に合わせて、形や位置が決められています。
船の速度が変わると、主船体とバルバスバウがつくる波の大きさや位置も変わります。そのため、設計時に想定した速度から大きく外れると、波をうまく弱められない場合があります。
喫水が変わると効果も変化する
喫水とは、水面から船底までの深さです。
貨物を多く積むと船体は深く沈み、貨物が少ないと高く浮きます。船体の沈み方が変われば、水面に対するバルバスバウの位置も変わります。
国際試験水槽会議の資料では、喫水が浅い状態では、球状船首によって船首付近に波の山が生じ、抵抗特性へ影響する場合があることが指摘されています。
バルバスバウが水面から出すぎると、設計どおりの波をつくれず、水しぶきや余分な波が発生することもあります。
大きければ効果が高いわけではない
バルバスバウは、大きくすればするほど抵抗が減るわけではありません。
突起を大きくすると水に触れる船体表面の面積が増え、摩擦抵抗が大きくなる可能性があります。また、波を発生させる位置や大きさが合わなければ、主船体の波を弱められません。
船体形状、速度、喫水に合った大きさと位置にすることが重要です。
なぜすべての船にバルバスバウが付いていないの?
バルバスバウは大型船でよく見られますが、すべての船に付いているわけではありません。
船の大きさや速さ、航行方法によっては、設置しても十分な効果を得られないためです。
小型船や低速船では効果が小さいことがある
小型船や低速で航行する船では、大型船ほど大きな船首波が発生しない場合があります。
減らせる造波抵抗が小さい一方、バルバスバウを付けると船体の表面積や建造費が増えます。
抵抗を減らす効果よりも、摩擦抵抗や重量、建造上の負担が大きくなる場合は、バルバスバウを設けるメリットが少なくなります。
速度が頻繁に変わる船には合わせにくい
バルバスバウは、一定の設計速度付近で波を弱めるように造られます。
離着岸を繰り返す船や、低速から高速まで頻繁に速度を変える船では、すべての速度域で同じ効果を得るのが難しくなります。
船の目的によっては、バルバスバウではなく、細く尖った船首や水面付近を垂直にした船首など、別の形状が採用されます。造船会社では、水槽試験や数値流体力学を使い、燃費や安全性を高める船首形状の開発が進められています。
高速小型船は進み方が異なる
モーターボートなどの高速小型船には、速度を上げることで船体を水面上へ持ち上げながら進むタイプがあります。
大型貨物船とは水から受ける抵抗や航行中の姿勢が異なるため、一般的な大型船と同じ形のバルバスバウが適しているとは限りません。
丸い突起が付いていないからといって、性能が悪い船というわけではありません。それぞれの用途や速度に合った船体形状が選ばれています。
船首の丸い部分について誤解しやすいこと
船の先端にある出っ張りは、見た目だけでは役割を判断しにくい部分です。
ここでは、バルバスバウについて誤解されやすい点を紹介します。
衝突時のクッションではない
丸く膨らんだ形をしているため、車のバンパーのように、衝突時の衝撃を吸収する部分に見えるかもしれません。
しかし、バルバスバウの主な目的は衝突対策ではありません。
船体の一部として造られ、造波抵抗を減らすために使われています。岸壁やほかの船にぶつけることを前提とした、柔らかいクッションではありません。
船を浮かせるための装置ではない
バルバスバウは、船を浮かせるための浮き袋や、浮力を調整するバラストタンクでもありません。
バラストタンクは、海水と圧縮空気を出し入れして潜水艦の重さを変え、潜水や浮上を行うための設備です。
船が浮く基本的な理由は、船体が押しのけた水から浮力を受けるためです。鉄でできた大型船が沈まない理由については、「船が水に浮く仕組み」で詳しく解説しています。
バルバスバウにも体積があるため船体全体の浮力には関係しますが、主な役割は航行中の波や水の流れを整え、造波抵抗を減らすことです。
波を完全に消す装置ではない
バルバスバウが付いていても、航行中の船から波は発生します。
船が水を押し分けて進む以上、波を完全になくすことはできません。
バルバスバウは、船体と突起がつくる波を干渉させ、船全体から発生する波をできるだけ小さくする構造です。
バルバスバウに関するよくある質問
バルバスバウとは何ですか?
バルバスバウとは、船首の水面下に設けられた丸い突起です。
日本語では球状船首とも呼ばれ、主船体がつくる波とバルバスバウがつくる波を弱め合わせ、造波抵抗を減らす役割があります。
バルバスバウと球状船首は同じものですか?
基本的には同じものです。
バルバスバウは英語由来の呼び方で、日本語では球状船首、球型船首、船首バルブなどと呼ばれます。
バルバスバウは水の中にあるのですか?
通常は水面下にあります。
ただし、貨物を積んでいない状態や波で船首が持ち上がったときは、一部が水面上に見えることがあります。ドックで船底が露出しているときには、バルバスバウ全体の形を確認できます。
どのような船に付いていますか?
タンカー、コンテナ船、ばら積み船、大型客船など、比較的大型で長距離を航行する船に多く見られます。
ただし、同じ種類の船でも、船体形状や速度、運航条件によっては付いていないことがあります。
バルバスバウは燃費を良くするのですか?
設計した速度や喫水に合った条件では、造波抵抗を減らし、必要な推進力や燃料消費を抑える効果が期待できます。
ただし、どのような速度や積載状態でも必ず燃費が良くなるわけではありません。設計条件から大きく外れると、効果が小さくなる場合があります。
丸い部分が大きいほど抵抗は減りますか?
大きければよいわけではありません。
大きすぎると摩擦抵抗が増えたり、適切な波をつくれなかったりする可能性があります。船体や設計速度に合った形と大きさが必要です。
船の先端にある丸い突起に関するまとめ
- 船首の水面下にある丸い突起はバルバスバウ
- 日本語では球状船首や船首バルブとも呼ばれる
- バルバスバウは通常、水面より下に設けられている
- 主な目的は、船が波をつくることで生じる造波抵抗を減らすこと
- 主船体とバルバスバウがつくる波を干渉させて弱める
- 波を完全に消すのではなく、船全体から発生する波を小さくする
- 造波抵抗が減ると、同じ速度に必要な推進力を抑えられる
- 推進力を抑えることで、燃料消費やCO2排出量の低減につながる
- バルバスバウは設計速度や喫水に合わせて形や位置が決められる
- 設計条件から外れると、十分な効果を得られない場合がある
- 小型船や速度変化の大きい船には付いていないこともある
- 衝突時のクッションや浮力を調整する装置ではない
船の先端にある丸い出っ張りは、見た目を特徴的にするための飾りではありません。船自身がつくる波を利用して別の波を弱め、少ないエネルギーで効率よく航行するための工夫です。
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