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車は前輪の向きを変えて曲がりますが、船には道路もタイヤもありません。それでも、船尾にある舵を動かすだけで大きな船まで進行方向を変えられます。
船が曲がる基本は、舵を水の流れに対して傾けて横向きの力を生み、その力で船尾を横へ動かして船首を回すことです。
ただし、実際の旋回は舵だけで完結するわけではありません。船が回り始めると船体そのものにも水から力が加わり、舵・プロペラ・船体が影響し合いながら大きな船を旋回させています。
ここでは、舵を切ってから船が曲がるまでの流れを中心に、プロペラとの関係、大型船の舵取機、低速や後進での違い、昔の帆船の舵まで順番に見ていきます。
船はどうやって曲がる?舵が水の流れから横向きの力を生む
一般的な船内機船では、船尾の水中に「ラダー」と呼ばれる舵板があります。直進中は舵板をほぼ船の前後方向にそろえていますが、進路を変えるときは、この舵板に角度を付けます。
- 船が前進し、舵の周囲に水流が生まれる
- 舵板を左右どちらかへ傾ける
- 舵に横向きの力が働く
- その力で船尾が横へ押される
- 船体を回そうとする力が生まれ、船首の向きが変わる
舵を傾けると水流から「揚力」が生まれる
舵板の断面は、水の流れを利用して力を発生させられる形に作られています。船が進んでいる状態で舵に角度を付けると、水流は舵に対して斜めに当たるようになります。
すると、舵の表面には場所によって異なる圧力が生まれ、水を横方向へ曲げる作用と、その反作用によって舵にも横向きの力が働きます。この流体力のうち、水流に対してほぼ直角方向に働く成分が揚力です。
飛行機の翼では空気から揚力を受けて機体を持ち上げますが、船の舵では水の中で生じた揚力を、主に船尾を横へ動かす力として利用します。
船尾が横へ押されることで船首が回り始める
舵に生じる横向きの力は船体の中心付近ではなく、船尾で働きます。そのため船全体を横へ平行移動させるだけではなく、船体を回転させようとする作用が生まれます。
この船の向きを回そうとする作用を回頭モーメントといいます。
たとえば右へ曲がるために右舵を取ると、舵の作用によって船尾は左側へ押されます。すると船体が回転し、反対側にある船首は右へ向き始めます。
さらに船が旋回し始めると、船体は進行方向に対して少し斜めになりながら動くため、水面下の船体にも横方向の流体力が生じます。船の大きさに対して舵が小さく見えても大型船を旋回させられるのは、最初の回頭を舵が作り、その後は船体に働く水の力も旋回に関わるためです。
船体に働く水の力については、同じ船の仕組みとして船が水に浮くのはなぜ?鉄の塊でも沈まない不思議な力の秘密でも解説しています。
舵輪を回してから水中の舵板が動くまでの仕組み
船の操舵室にある丸いハンドルは「舵輪」と呼ばれます。しかし、大型船では舵輪と巨大な舵板を単純な棒で直接つないで、人の力だけで動かしているわけではありません。
舵輪は指令を出し、実際に水流を受けるのは舵板
操船者が舵輪などの操舵装置を操作すると、「どの方向へ、どの程度舵を動かすか」という指令が操舵系統へ伝わります。
その指令に応じて船尾の舵板が舵軸を中心に回転し、水に対する角度が変わります。水流から実際に力を受けて船の向きを変える部分は、この水中にある舵板です。
なお、小型船では舵輪ではなく「ティラー」と呼ばれる棒状の舵柄を動かして操舵する方式もあります。ティラーを直接操作する場合は、舵輪とは操作感が異なり、ティラーを動かした側とは反対方向へ船首が向きます。
大型船では舵取機が油圧などを使って重い舵を動かす
大型の貨物船やタンカー、フェリーになると、水中の大きな舵には非常に大きな力が加わります。人の腕力で直接動かせるものではありません。
そこで使われるのが舵取機(steering gear)です。たとえば川崎重工では、電動機で油圧ポンプを動かし、その油圧によって舵を動かす電動油圧舵取機を船舶向けに製造しています。
大型船では、操舵室での操作を受けて舵取機が大きな力を発生させ、舵軸を介して舵板を所定の角度へ動かします。舵輪は巨大な舵を腕力で回すためのものというより、操舵の指令を与える操作部と考えると分かりやすいでしょう。
現在の大型船用舵取機の一例は、川崎重工の舵取機の公式ページでも確認できます。
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なぜ舵はプロペラの後ろに付いていることが多い?
船内機を使う一般的なプロペラ船を見ると、船尾側から「プロペラ→舵」の順に並んでいることがあります。この配置には、舵を効かせるうえで大きな意味があります。
プロペラが作る速い水流を舵へ当てられる
舵が大きな力を発生させるには、舵の周囲を水が流れている必要があります。一般に舵へ当たる水の流れが速くなるほど、舵が生み出せる流体力も大きくなります。
プロペラを回すと、プロペラの後ろには周囲より速い水流ができます。その水流が舵へ当たるように配置すれば、船そのものの速さだけに頼るより舵に強い流れを与えられます。
プロペラの後ろに舵があるのは、プロペラが作る水流を利用して舵の効きを高められるからです。
このため、船自体がまだ低速でも、前進方向へプロペラを回して舵に十分な水流が当たっていれば、舵に横向きの力を発生させられる場合があります。
船速が遅くなると舵が効きにくくなる
反対に、船の速度が落ちて舵を通過する水流も弱くなると、同じ角度まで舵を切っても得られる力は小さくなります。
国土交通省の「小型船舶の航行の安全に関する教則」でも、船の型や推進方式にかかわらず、速度が速いほど舵効きがよいとされています。
ただし「船速がゼロなら絶対に舵が効かない」という意味ではありません。プロペラ後方に舵がある船では、船がほとんど進んでいなくてもプロペラが生み出す水流が舵へ当たれば、ある程度の舵力を得られます。
船速、プロペラの回転状態、推進方式によって舵の効き方が変化する点が、車のステアリングとの大きな違いです。
右に舵を切ると船首と船尾はどちらへ動く?
船の旋回を理解するときに迷いやすいのが、「右へ曲がるなら船全体がそのまま右へ動くのでは?」という点です。
船は車のように前側のタイヤを旋回方向へ向けるのではなく、主に船尾側で向きを変える力を作ります。そのため、旋回を始めた直後の船尾の動きに注意が必要です。
右舵では船尾が左へ押され、船首が右へ向く
右へ曲がる場合を考えてみましょう。右舵を取って舵板に角度を付けると、舵に横方向の力が働き、船尾が左側へ押されます。
船尾が左へ動くと、船体は上から見て右へ回転します。その結果、船首が右へ向きます。
右へ旋回するときは「船首が右へ、船尾は左へ」という動きから始まると覚えると、舵の仕組みをイメージしやすくなります。
旋回を始めると船尾が外側へ振れる「キック」が起こる
船が旋回を始めたとき、船尾が旋回方向とは反対の外側へ振り出される動きをキックといいます。
右へ旋回するなら船尾は左へ、左へ旋回するなら船尾は右へ振れます。国土交通省の教則でも、この船尾が外側へ押し出される操縦特性が示されています。
そのため実際の船では、船首側だけに十分な空間があれば安全に曲がれるとは限りません。狭い場所での操船では船尾側の動きも重要になります。
なお、ここで説明しているのは船の運動特性です。実船の操船では船型、速力、風、波、潮流、推進器などによって動きが変わるため、記事の説明だけを実際の操船手順として使用することはできません。
大型船・低速・後進では舵の効き方がどう変わる?
舵によって横向きの力を作り、船尾を動かして回頭させる基本原理は大型船でも同じです。しかし、船の大きさや速力、前進・後進などの条件によって、実際の動き方は大きく変わります。
大型船も舵で曲がる基本原理は同じ
巨大な貨物船や客船を見ると、船体に比べて舵が驚くほど小さく感じられることがあります。それでも、前進中の水流やプロペラ後流を利用すれば、舵は船尾に回頭を始めるための力を与えられます。
そして旋回が始まると、斜めに進む船体にも水から横向きの力が加わります。そのため、船全体の旋回運動は「小さな舵だけが巨大な船を力任せに押している」と考えるより、舵が旋回のきっかけを作り、船体に働く流体力も加わって向きが変わると捉える方が実際に近くなります。
一方、大型船は質量も大きく、舵を動かした瞬間にその場で向きが変わるわけではありません。一定の距離を進みながら徐々に旋回していきます。
後進では前進時より舵が効きにくい場合がある
プロペラの後方に独立したラダーがある船内機船では、前進時と後進時で舵周辺の水の流れ方が変わります。
前進時にはプロペラから後方へ送り出された速い水流が、その後ろの舵へ直接当たりやすくなります。ところが後進時は水流の関係が逆になり、前進時と同じ条件でプロペラ後流を舵へ利用できません。
国土交通省の教則でも、ラダーで操舵する船内機船は特に後進時の舵効きが悪いとされています。
さらに実際の船では、プロペラの回転によって船尾を横方向へ動かす力なども加わるため、後進時の動きは単純に「前進を逆再生したもの」にはなりません。
港ではバウスラスタなども使って船の向きを調整する
通常の舵は水流を利用するため、船がほぼ停止している状態では十分な舵力を得にくいことがあります。しかし、港での離着岸では低速やほぼ停止した状態で船首を横へ動かしたい場面があります。
そこで船によってはバウスラスタが装備されています。船首付近に横向きの推力を発生させ、通常の舵では対応しにくい低速域で船首の向きや位置を調整する装置です。
鉄道・運輸機構(JRTT)は、船首付近のトンネル内にあるプロペラで横方向の推力を生み出すバウスラスタを紹介しており、港内での方向転換や離着岸などに利用されています。
舵が主に「進んでいる船を旋回させる装置」なのに対し、バウスラスタは「船首を横方向へ動かす補助装置」と考えると違いが分かりやすいでしょう。
すべての船が同じ舵板で曲がるわけではない
ここまでは、プロペラの後方に独立した舵板がある船を中心に説明してきました。しかし、船の推進方式によっては舵板そのものを使わず、推進力を出す方向そのものを変えて操舵する方式があります。
| 主な方式 | 方向を変える部分 | 独立した舵板 |
|---|---|---|
| 船内機+ラダー | プロペラ後方の舵板 | 通常あり |
| 船外機 | 船外機全体 | 通常なし |
| ポッドドライブ | 推進ユニット | 方式によって不要 |
| ウォータージェット | ジェット噴流の向き | 通常のラダーとは異なる |
船外機はプロペラを含む船外機全体の向きを変える
小型ボートでよく見られる船外機は、エンジンからプロペラまでが船尾の外側にまとまっています。
このタイプでは独立したラダーを動かすのではなく、船外機全体を左右へ旋回させて、プロペラが生み出す推進力の向きを変えます。
船内外機のスターンドライブも、ドライブユニットの向きを変えて操舵する方式があります。船内機・船内外機・船外機・ポッドドライブの違いは、ヤマハ発動機の駆動方式の解説でも確認できます。
ポッドドライブやウォータージェットは推力の向きを変えて曲がる
ポッドドライブでは、船底に取り付けた推進ユニット自体に操舵機能を持たせた方式があります。推進器の方向を変えれば、船を押す力そのものの向きを変えられます。
ウォータージェット船はさらに仕組みが異なります。船内に取り込んだ水をジェットとして後方へ噴射して推進し、操舵するときはステアリングノズルなどで噴き出す水の向きを変えます。
このように「船が曲がる=必ず船尾の舵板を動かす」とは限りません。共通しているのは、水に対して横向きの力や向きを変えた推力を発生させ、その力で船体を回頭させることです。
昔の船や海賊船の舵はどう動かしていた?
映画やイラストに登場する昔の帆船では、大きな木製の舵輪が印象的です。ただし、昔の船がすべて同じ舵輪を備えていたわけではなく、船の時代や大きさによって操舵方法は異なります。
小型船ではティラーで舵を直接操作する方式が使われた
比較的小さな船では、舵軸につながった長い棒状の「ティラー」を左右へ動かすことで舵板の向きを変えられます。
この方式では仕組みが単純ですが、船や舵が大きくなるほど操舵に必要な力も大きくなります。また、ティラーを大きく振るためのスペースも必要です。
大型帆船の舵輪はロープや滑車を介して舵柄を動かした
船が大型化すると、舵輪を使ってロープや機械装置を動かし、その力を舵側へ伝える仕組みが使われるようになりました。
英国のNational Maritime Museumが所蔵する19世紀の王室ヨット「Victoria and Albert」の操舵装置模型では、舵輪の間にあるドラムへ操舵用ロープが巻かれ、ロープが滑車などを経由して別の機構へ伝わり、最終的にティラーを左右へ動かす構造を確認できます。
この実物資料は、Royal Museums Greenwichの操舵装置模型で見ることができます。
現代の大型船では電動・油圧などを使う高度な舵取機へ変わっていますが、操舵装置から力や指令を伝え、水中の舵の角度を変えて船を回頭させるという考え方にはつながりがあります。
船が舵で曲がる核心は、「船首を直接右や左へ押す」のではなく、船尾に横向きの力を発生させて船体を回転させることです。
さらに、プロペラの後流や船体そのものに働く水の力も旋回を助けています。船尾にある比較的小さな舵で巨大な船の方向まで変えられるのは、水の流れをうまく利用した仕組みだからです。
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