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車のタイヤを見ると、表面には縦や横、斜め方向へ複雑な溝が刻まれています。
「路面に触れるなら、平らなほうがしっかり接地しそうなのに、なぜわざわざ溝を作るのだろう?」と疑問に思うかもしれません。
車のタイヤに溝がある最大の理由は、雨の日にタイヤと路面の間へ入り込む水を外へ逃がすためです。水を排出することでゴムと路面が接触しやすい状態を保ち、走る・曲がる・止まるという動きを支えています。
ただし、タイヤの溝は単なる「水抜き」だけではありません。溝や切り込みを組み合わせたトレッドパターンには、駆動や制動、操縦安定性などを考えたさまざまな工夫があります。
車のタイヤに溝がある最大の理由は雨水を逃がすため
乾いた道路では、タイヤのゴムが路面へ直接触れています。しかし雨が降ると、タイヤが踏む場所にも水が存在します。
そこで重要になるのが、タイヤ表面に設けられた溝です。ブリヂストンも、タイヤのトレッドパターンには濡れた路面の水を排除する働きがあると説明しています。
タイヤと路面の間に入った水を溝から外へ逃がしている
タイヤが濡れた路面を転がると、接地面の前方から次々と水が入り込んできます。
この水を受け入れる通り道になるのがタイヤの溝です。タイヤが回転しながら水を溝へ取り込み、接地面の外へ逃がすことで、ゴムが路面へ触れやすい状態を作ります。
そのため、溝は単に表面をデコボコにしているわけではありません。濡れた路面でタイヤと道路の間から水を取り除く「排水路」として働いています。
一般的な夏用タイヤを見ると、タイヤの周方向へ伸びる太い溝のほか、横や斜めへ伸びる溝も組み合わされています。水を効率よく逃がしながら、ほかの走行性能とのバランスも取れるように設計されているためです。
タイヤの溝については、ブリヂストンの「タイヤの豆知識」でも、濡れた路面で水を排除する役割が紹介されています。
水を排出しきれないとハイドロプレーニングが起こる
雨の日にタイヤの排水が重要なのは、水があるだけで路面との接触状態が大きく変わるためです。
水のたまった道路を速い速度で走り、タイヤの溝だけでは水を排出しきれなくなると、タイヤが水の膜の上を滑るような状態になることがあります。これがハイドロプレーニング現象です。
タイヤと路面との十分な接触が失われるため、ハンドル操作やブレーキなどが効きにくくなり、車を思い通りに動かすことが難しくなります。
日本自動車タイヤ協会(JATMA)も、水のたまった道路を高速走行した際に、タイヤの溝で水を排除しきれないとハイドロプレーニングが起こることがあると案内しています。
なお、ハイドロプレーニングは溝だけで決まるものではありません。走行速度、水の深さ、タイヤの摩耗状態など複数の条件が関係します。溝が十分にあるからといって、雨の日に速度を上げても安全という意味ではありません。
タイヤの溝は排水以外の走行性能にも関わっている
タイヤの接地面に刻まれている模様全体は「トレッドパターン」と呼ばれます。
TOYO TIRESでは、トレッドパターンの役割として雨天時の排水だけでなく、駆動力・制動力、操縦安定性、放熱性なども挙げています。
トレッドパターンは走る・止まる・曲がる性能を考えて設計されている
車が加速するときには、エンジンやモーターから伝わった力をタイヤから路面へ伝える必要があります。ブレーキをかけるときには、その反対に車の動きを減速させる力を路面へ伝えなければなりません。
さらにカーブでは、進行方向を変えるための力もタイヤへ加わります。
タイヤメーカーは、こうした複数の条件を考えながら、溝の向き、幅、深さ、ブロックの形などを組み合わせています。そのため、トレッドパターンは見た目だけを目的に付けられた模様ではありません。
| トレッドパターンに求められる働き | 主な内容 |
|---|---|
| 排水 | タイヤと路面の間から水を逃がす |
| 駆動・制動 | 加速やブレーキの力を路面へ伝える |
| 操縦安定性 | 直進やカーブで車の動きを安定させる |
| 静粛性・乗り心地 | パターンによって発生する振動や音などを考慮する |
どれか一つだけを最大化すればよいわけではなく、用途に合わせて複数の性能を両立させることが重要です。
トレッドパターンの基本的な役割は、ダンロップのタイヤ基礎知識でも確認できます。
太い溝や細かな切り込みにはそれぞれ役割がある
タイヤ表面をよく見ると、すべての溝が同じ太さではないことに気付きます。
大きな溝に加えて、タイヤには「サイプ」と呼ばれる細かな切り込みが設けられることがあります。
ただし、「太い溝は必ず排水専用」「細い溝は必ずグリップ専用」のように単純に分けられるものではありません。パターン全体として性能が決まるため、役割はタイヤの種類や設計によって変わります。
特にスタッドレスタイヤでは、夏用タイヤとは目的が異なる細かなサイプが数多く使われます。凍結路ではサイプのエッジや接地状態などを利用して氷上性能を確保するため、夏用タイヤとは見た目も大きく異なります。
このように、タイヤ表面の模様は「溝を付ければ完成」ではなく、走る路面や用途に合わせて細かく作り分けられています。
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それならレース用タイヤはなぜツルツルなのか
ここまで読むと、「溝がそんなに大切なら、なぜレースでは表面がツルツルしたタイヤを見ることがあるの?」という疑問が出てきます。
これは、タイヤを使う条件が一般道とは大きく違うためです。
乾いた路面では溝なしタイヤにも大きなメリットがある
モータースポーツで使われる溝のないタイヤは「スリックタイヤ」と呼ばれます。
HondaはF1のスリックタイヤについて、ドライコンディション専用の溝なしタイヤで、最大限の接地面積とグリップを得るよう設計されていると説明しています。
雨水を排出する必要がない乾いた路面だけを考えれば、タイヤ表面から溝を減らし、路面へ接するゴムの部分を広くできるという考え方が成り立ちます。
つまり、「溝があるほど、どんな路面でもグリップが高くなる」というわけではありません。
スリックタイヤについては、Honda公式のF1用語集でも確認できます。
公道用タイヤは晴れだけでなく雨にも対応する必要がある
サーキットでは天候や路面状況に合わせてタイヤを交換できますが、一般の車は晴天だけを選んで走るわけではありません。
出発したときには晴れていても、途中から雨が降ることがあります。道路には水たまりができることもあり、気温や路面状態も一定ではありません。
そのため公道で使う一般的なタイヤでは、乾いた路面だけの最大グリップではなく、濡れた路面でも排水しながら安定して走れることとの両立が必要になります。
溝があるタイヤと溝のないスリックタイヤは、どちらが優れているかという単純な関係ではなく、それぞれ想定している条件が違います。
タイヤによって溝の模様が違うのはなぜ?
駐車場などで複数の車のタイヤを比べてみると、溝の本数や向き、模様がかなり違います。
これは、タイヤごとに重視している性能や想定する用途が異なるためです。
求める性能によってトレッドパターンが変わる
タイヤには、雨の日の性能だけでなく、直進安定性、カーブでの操縦性、静かさ、乗り心地など、さまざまな性能が求められます。
たとえば排水性を高めるためには水の通り道を確保する必要がありますが、溝を増やせば、その分だけ路面へ直接触れるゴムの部分にも影響します。
一方で、ブロックの形や並び方は走行時の変形や音にも関係します。そのため、すべてのタイヤを同じ溝にするのではなく、それぞれの目的に合わせた設計が行われています。
ダンロップでは、トレッドパターンを基本的にリブ型、ラグ型、リブラグ型、ブロック型の4種類に大別し、それらを用途に合わせて組み合わせていると説明しています。
対称・非対称・回転方向指定など設計にも違いがある
トレッドパターンには、左右がほぼ同じ形をしたものだけでなく、内側と外側で異なる「非対称パターン」や、タイヤが回転する向きを指定した「方向性パターン」もあります。
TOYO TIRESも、一般的な左右対称パターンのほか、非対称パターンや回転方向の指定がある方向性パターンが存在すると説明しています。
そのため、新しいタイヤを見て「前に使っていたタイヤと溝の形が違う」と感じても、模様が違うこと自体は不自然ではありません。
また、タイヤには溝以外にもさまざまな工夫があります。タイヤが黒い理由については、関連記事の車のタイヤはなぜ黒い?黒以外の色の可能性と寿命の秘密を解き明かすで詳しく紹介しています。
タイヤの溝が減ると雨の日に滑りやすくなる
タイヤは走るたびに路面と接触するため、トレッドのゴムが少しずつ摩耗していきます。
表面が減れば、当然ながら溝も徐々に浅くなります。ここで影響を受けやすいのが、これまで説明してきた排水性能です。
浅くなった溝は排水できる水の量が減る
深さのある溝なら、タイヤの接地面へ入ってきた水を受け入れ、外へ逃がすための空間を確保できます。
しかし摩耗によって溝が浅くなると、水を排出する能力が低下します。特に水の多い道路や速度が高い状況では、タイヤと路面の間に水が残りやすくなります。
ブリヂストンも、摩耗によって溝が浅くなると排水性能が低下し、ハイドロプレーニングが発生しやすくなることを案内しています。
晴れた日に普通に走れているからといって、雨の日も同じ性能が残っているとは限りません。タイヤの溝は、濡れた道路を走るときほど重要になります。
残り溝1.6mmとスリップサインは使用限度を知る目安
タイヤには、摩耗の限界を確認するための「スリップサイン」が設けられています。
乗用車用タイヤの使用限度は残り溝1.6mmで、摩耗して残り溝が1.6mmになるとスリップサインが現れます。
日本自動車タイヤ協会(JATMA)も、残り溝1.6mmをタイヤの使用限度として案内しています。
国土交通省も日常点検の案内で、溝の深さが1.6mm以下になるとスリップサインが現れ、溝不足は特に雨天時に危険になると注意を呼びかけています。
ただし、1.6mmは「そこまでなら新品と同じ性能で安全」という意味ではありません。摩耗が進むにつれて排水性能は変化するため、スリップサインが出るまで何も確認しなくてよいわけではありません。
さらにタイヤの安全性は溝の深さだけでは判断できません。偏った摩耗、亀裂、損傷、異物なども点検する必要があります。
車のタイヤに刻まれた複雑な溝は、単なる模様ではありません。雨水を逃がして路面との接触を保ち、さまざまな走行性能を成立させるために設計されたものです。
普段はあまり意識しない部分ですが、雨の日に安心して走るためには特に重要です。タイヤを見る機会があれば、溝の「形」だけでなく、「十分な深さが残っているか」にも目を向けてみてください。
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