新幹線の鼻が長いのはなぜ?トンネル微気圧波を抑える仕組みを解説

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新幹線を横から見ると、先頭部分が驚くほど長く伸びています。特にE5系やE6系は、運転席よりもはるか前まで細長い形が続いているため、「なぜここまで鼻を長くする必要があるの?」と疑問に感じる人もいるでしょう。

新幹線の鼻が長い大きな理由は、高速でトンネルへ入ったときに発生する「トンネル微気圧波」を小さくするためです。 細長い先頭部によって空気を急激に押さないようにし、トンネル内にできる圧縮波をできるだけ穏やかにします。

ただし、「空気抵抗を減らすため」という説明も完全な間違いではありません。新幹線の先頭形状は、微気圧波だけでなく、走行時の空気抵抗や騒音なども考えながら車両ごとに最適化されています。

目次

新幹線の鼻が長い最大の理由はトンネル微気圧波を抑えるため

新幹線の長い鼻を理解するうえで重要なのが、「トンネル微気圧波」という現象です。

鉄道総合技術研究所(鉄道総研)によると、高速列車がトンネルへ突入するとトンネル内に圧縮波ができ、それがトンネル内を伝わったあと、反対側の坑口からパルス状の圧力波として外へ放射されます。この外へ放射される圧力波がトンネル微気圧波です。

高速でトンネルに入ると前方の空気が一気に圧縮される

新幹線が地上を走っているとき、車両の前にある空気は上下左右へ比較的自由に逃げられます。

ところが、トンネルでは周囲を壁に囲まれているため、空気の逃げ道が限られます。そこへ大きな車体が高速で進入すると、先頭部がトンネル内の空気を急速に押し込み、圧力の高い部分が生まれます。

列車とトンネル内の空気の関係は、地下鉄で列車が空気を押してホームに風を起こす現象とも共通する部分があります。列車が空気を動かす仕組みについては、地下鉄の駅で風が強いのはなぜ?列車が空気を押すピストン効果を解説でも詳しく紹介しています。

圧縮波が出口まで伝わると音や振動の原因になる

トンネル入口でできた圧縮波は、その場だけで消えるわけではありません。トンネル内を音速で伝わり、反対側の坑口へ向かいます。

  1. 新幹線が高速でトンネルへ入る
  2. 先頭部が空気を圧縮して圧縮波ができる
  3. 圧縮波がトンネル内を反対側の坑口まで伝わる
  4. 坑口から微気圧波として外へ放射される

微気圧波が大きくなると、坑口付近で発破音のような音が発生したり、周辺の建具をがたつかせたりすることがあります。新幹線の高速化では、単に車両を速く走らせるだけでなく、こうした沿線環境への影響を抑えることも欠かせません。

鼻を長くするとトンネル微気圧波が小さくなるのはなぜ?

ここで重要なのは、列車が押す空気の量をゼロにすることではありません。車体がトンネルへ入る以上、空気は必ず押されます。

新幹線の長い鼻は、空気の圧力を短時間で急激に変化させないために役立っています。

先頭部を細長くすると空気を急激に押さずに済む

もし新幹線の先頭が平らな壁のような形だったら、トンネルへ入った瞬間に大きな断面の車体が一気に空気を押すことになります。

一方、細長い先頭部なら、まず小さな先端が入り、その後に少しずつ車体の断面が大きくなります。トンネルから見れば、ふさがれる面積が時間をかけて増えていくため、空気の圧力変化を緩やかにできます。

鉄道総研の研究では、トンネル微気圧波の大きさは、トンネル内を伝わる圧縮波の圧力勾配、つまり圧力がどれほど急激に変わるかと深く関係しています。

そのため、新幹線の先頭部は「空気を切り裂くために尖らせている」というより、トンネルに入る際の圧力変化をコントロールする形と考えると分かりやすいでしょう。

重要なのは長さだけでなく断面積が変わる形

では、新幹線の鼻はとにかく長くすればよいのでしょうか。実際には、そう単純ではありません。

鉄道総研では、先端から客室側へ向かって車体の断面積がどのように増えていくかを考え、先頭形状を最適化しています。鼻の途中で急に太くなれば、その部分で大きな圧力変化が起こる可能性があるためです。

「何メートルあるか」だけでなく、「その長さを使ってどのように車体を太くしていくか」が重要ということです。

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長い鼻には空気抵抗や走行騒音を抑える役割もある

新幹線の先頭形状はトンネル対策だけを考えて決められているわけではありません。高速で走る車両では、車体の周囲を流れる空気そのものが走行性能や騒音に大きく影響します。

高速になるほど車体まわりの空気の流れが重要になる

列車が高速になるほど、先頭部では空気を押しのける力が大きくなります。車体表面から空気の流れが大きく乱れたり、はがれたりすると、空気抵抗や騒音の増加につながります。

そのため新幹線では、先頭部だけでなく、車体と車体のつなぎ目、台車周辺、パンタグラフなども含めて空気の流れを整える工夫が行われています。

新幹線が300km/h前後の速度で安定して走るためには、先頭形状だけでなく、車体・台車・線路・制御システムなど多くの技術が組み合わされています。高速走行全体の仕組みは、新幹線の速さの秘密 なぜ脱線せずに安全走行できるの?でも解説しています。

N700Sでは微気圧波・騒音・走行抵抗などをまとめて低減

東海道新幹線のN700Sも、先頭形状を空力的に最適化した車両の一例です。

JR東海が公表したN700Sの先頭デザイン資料では、左右両側にエッジを設けて走行風を整えることで、微気圧波だけでなく、車外騒音・走行抵抗・最後尾車の動揺も低減すると説明されています。

つまり、新幹線の独特な先頭形状には一つだけの目的があるのではなく、トンネル対策と高速走行時の空力性能を両立させる役割があります。

新幹線によって鼻の長さや形が違うのはなぜ?

同じ新幹線でも、丸みのある車両、細長く尖った車両、左右に張り出したような車両など、先頭形状はかなり違います。

これはデザインの好みだけで決めているのではなく、走る路線や速度、トンネル条件、必要な定員などに合わせて設計しているためです。

走行速度や車体・トンネルの条件に合わせて最適化する

トンネルへ突入したときに生じる圧力変化は、列車の速度だけで決まるものではありません。車体とトンネルの断面積の関係や、トンネル入口の形状なども影響します。

そのため「新幹線ならこの形が唯一の正解」という先頭形状はありません。それぞれの車両が使われる条件に合わせ、コンピューターによる流体解析や模型実験などを使って形を詰めていきます。

鼻を長くすると先頭車の客室スペースが減る

ロングノーズにはメリットがある一方で、先頭車両の限られた長さの中で鼻を伸ばせば、その分だけ客室として使える部分が少なくなります。

実際にJR東日本の公式メディア「and E」のE8系開発記事では、E3系・E8系・E6系について次の先頭長が紹介されています。

車両先頭長営業最高速度
E3系6m275km/h
E8系9m300km/h
E6系13m320km/h

E8系はE3系より先頭部を長くしながら、E6系ほどは長くしていません。E8系では300km/h走行への対応と、先頭車の座席数を含む編成定員とのバランスを考えて9mが選ばれています。

新幹線の鼻は、長ければ長いほど優れているのではなく、速度・空力性能・客室スペースなどを合わせて最適な長さを決めています。

東北新幹線のE5系・E6系はなぜ特に鼻が長い?

東北新幹線で見かけるE5系や、秋田新幹線のE6系は、数ある新幹線の中でも特に先頭部が長く見える車両です。

320km/h運転に対応するためロングノーズを採用

JR東日本によると、E5系は営業最高速度320km/hで走行し、高速運転に伴う騒音対策として、トンネル微気圧波を低減するロングノーズの先頭形状を採用しています。

E6系についても、新幹線区間での320km/h走行に対応し、トンネル微気圧波を小さくするロングノーズが採用されています。

320km/hという高速域では、速度向上によって空力上の課題も大きくなります。E5系やE6系の長い先頭部は、見た目を特徴的にするためではなく、高速走行と沿線環境を両立させるための機能的な形です。

E8系がE6系より短いのは速度と定員を両立するため

山形新幹線のE8系は、E6系より短い9mの先頭部を採用しています。最高速度もE6系の320km/hに対して300km/hです。

これはE8系の技術が劣っているという意味ではありません。山形新幹線に必要な輸送量や編成定員を確保しながら速度を向上させるという条件の中で、空力解析を行い、9mの「アローライン形状」が選ばれています。

同じJR東日本の新幹線でも先頭長が異なるのは、用途や運転条件が違うためです。

500系新幹線の鼻はカワセミがヒントになった?

新幹線の先頭形状について調べると、「500系はカワセミを参考に作られた」という話を見かけることがあります。

これは単なる都市伝説ではありません。500系の開発に関わった元JR西日本の仲津英治氏は、日本機械学会の500系新幹線の開発に関する講演資料で、カワセミと列車の先頭形状との関係を紹介しています。

500系開発ではカワセミから学んだ記録が残っている

カワセミは、空中から水中へ飛び込んで魚を捕まえる鳥です。空気と水では抵抗の大きさが大きく異なりますが、カワセミは細長いくちばしと頭部によって水面へ滑らかに入っていきます。

500系の開発では、この形が、空気の状態が大きく変わる場所へ高速で進入する新幹線の課題を考えるヒントになりました。

500系は山陽新幹線で300km/h運転を実現するために、高速性能だけでなく騒音対策も大きな課題でした。自然界の形をそのままコピーしたというより、カワセミの特徴から空力設計の着想を得たと理解するのが適切です。

すべての新幹線がカワセミ型というわけではない

注意したいのは、「新幹線の鼻が長いのは全部カワセミをまねたから」という説明です。

カワセミとの関係がよく知られているのは500系の開発事例です。その後の新幹線では、数値流体解析や模型実験などを使い、それぞれの速度や路線条件に合わせて先頭形状が設計されています。

生き物から得た発想が新幹線技術に生かされた例はありますが、現在のさまざまな先頭形状をすべて一つの生き物で説明することはできません。

鼻を長くする以外にもトンネル微気圧波を減らす方法がある

トンネル微気圧波への対策は、車両だけで行っているわけではありません。トンネル側にも圧力変化を和らげる設備があります。

トンネル入口の緩衝工でも圧力変化を和らげている

新幹線のトンネル入口を見ると、本来のトンネルより少し大きな筒状の構造物が取り付けられている場所があります。これが「トンネル緩衝工」です。

緩衝工には開口部などが設けられ、列車が本体のトンネルへ入る前に空気の圧力変化を和らげます。鉄道総研では、車両先頭部の延伸・形状最適化とともに、緩衝工を実用化されている代表的な微気圧波対策として挙げています。

つまり、高速化によって大きくなる問題を「もっと長い鼻だけ」で解決しているのではありません。車両とトンネルの両側から対策することで、高速運転と沿線環境を両立させています。

形状を最適化すれば先頭部を短くできる可能性もある

先頭部の研究が進むと、「同じ効果をもっと短い鼻で実現する」という方向も考えられます。

鉄道総研が開発した微気圧波低減のための3段型先頭部形状では、約12mの先頭部を想定した模型実験で、従来型より微気圧波のピーク値を約5%低減できることが確認されています。

さらに、従来の12m級先頭部と同程度の性能を保ちながら、先頭部を1m短くできる可能性も示されました。

この研究からも、新幹線の鼻で重要なのは単純な長さではなく、断面積の変化や空気の流れを含めた形状全体だと分かります。

新幹線の細長い鼻は、高速で走る姿を印象づけるデザインであると同時に、トンネルへ入る瞬間の空気をコントロールする重要な装置でもあります。次にホームで新幹線の先頭を見るときは、その長い形の中に、速度だけではなく騒音や沿線環境まで考えた空力設計が詰まっていることが分かるはずです。

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